レアル・マドリーの仕組み
・前説
バンデルレイ・ルシェンブルゴを迎えたレアル・マドリーは、システムを一変しリーガで連勝を続けている。
この稿では、一般に「1−4−4−2で中盤をひし形に組んでいる」と評されているそのシステムをより詳しく分析する。
・守備における配置と各個人の役割
一般的に言われているように、現在のマドリーの中盤はひし形に組まれいるが、その左右は見事に非対称になっている。
まず守備での動きは図1のようになっている。
ここでもっとも特徴的な動きをするのはベッカムであり、基本的に右ミッドフィールダーというよりは右のボランチに近い動きをする。
その主な任務はグティの右側のカバーとサルガドの裏のカバー、それに右前へのプレッシャーが加わる。
現在のマドリーは、守備においてこれまでになく前方からのプレッシャーを重視して戦っている。
特に攻めにおいて左側に偏る傾向が強いため、必然的に左でボールを失う場面が多い。
その後の守備を見ると、図2のようになっており、ロナウドが中央でセンターバックへ脅しをかけ、ラウールがボールに詰めてその裏をジダンが支え、フィーゴがボランチへのパスを切る。
そのディフェンスラインとグティは順番にサイドへ詰め、ベッカムは完全に右ボランチのポジションを占める。
ジダンとフィーゴが遅れて戻る場合には、ラウールがグティへのヘルプを担当する。
・攻撃での動き
基本的に図3のようになっている。
もっとも典型的な攻撃配置は図4に見られる。
この状態で最も特徴的なのは、サイドライン際のスペースをサイドバックが活用する点である。
技術の高い選手が中央に集まり、サイドバックは大きく開いて攻撃の広さと、困った時のサイドチェンジの目標となる。
一般のシステム論からは、ベッカムを右ミッドフィールダーと考えると、右サイドライン際は彼の担当だと考えられる。
しかしながら、現実にはサルガドが上がることによってそのスペースは活用されている。
右前方を占める選手は主に、フィーゴ、ベッカム、サルガドだが、その頻度は、サルガド>フィーゴ>ベッカムの順になっている。
この関係でマドリーが攻撃している場合のベッカムの位置はサルガドよりも低く、ほとんどサイドバックのような位置にいることが多い。
そこでボランチとサイドバックにヘルプを行い、バックパスを大きく左に捌くことを主な任務としている。
前線の構成としては、ロナウドは常にラインの裏への飛び出しを狙い、フィーゴは自分の動きたい場所に動き、ラウールはこの二人に合わせて移動、空いた穴にジダンが動く形になっている。
・攻撃におけるマドリーの現状
この試合でも4−0と大勝したマドリーではあるが、現段階においてこのスターティングメンバーにおいては、
1 ベッカム、グティからのサイドチェンジ
2 カウンター
この二つからチャンスのほとんどを生み出している。
例えば、前半のジダンとフィーゴのゴールは、図5のように二つのサイドチェンジから生み出されている。
最初の得点は50m以上のフリーキックをベッカムがピンポイントでジダンに送り、イバーラがポジショニングを間違えて裏を取られたことから始まった。
2点目はカメニのロングスローを回収したグティが40mほどのサイドチェンジをフィーゴに送ったことから始った。
カウンターに関しては、10分30秒の、右で浮いたフィーゴがセンターライン付近でパスを受け、30m以上のスルーパスを送った後にロナウドがカメニをかわした場面などにあらわれている。
この事実の裏を返せば、人が集まりすぎる中央でパスがつながらず、ボールを支配しているとしても、相手守備組織の周辺でパスを回しているだけであるともいえる。
また、マドリーが後半に追加点を奪ったのはジダンとグラベンセン、ベッカムとソラーリを交代させ、システムを1−4−4−1−1に変更した67分以降であり、その得点もソラーリとロベルト・カルロスが二人のパス交換でサイドを崩した後に、前半にはほとんど見られなかった横からのセンタリングをあげて、ラウールが中央で合わせたものである。
・守備におけるマドリーの現状
この試合で最も興味を引くデータは、レアル・マドリー
25:11 エスパニョール
という犯したファールをあらわす数字であり、マドリー
3:1
エスパニョールというイエローカードをあらわす数字である。
ゲームを支配して大勝したホームチームの方が多くのファールを犯し、より多くのイエローカードをもらうという現象はそれほど一般的ではない。
これは、攻撃時に図4のように思い切った態勢を取ることに起因している。
サイドバックを大きく上げることで当然後方にスペースを残す。
この状態で相手フォワードにボールをキープされてサイドに捌かれると非常にまずい。
よってボランチ、センターバックは引いてボールを受けるフォワードに対しては、なるべく早い段階でファールを犯して止めた方がよい。
またこのような場面は頻繁におこるので、センターバックが「繰り返しのファール」でイエローを受ける場面は増える。
これは正にエルゲラの身に起こったことでもある。
また現状では、グティの前と後ろで大きくチームが分離する場面が多く、その間でボールを受けられてピンチを招く場面も多い。
・以上から考えられるマドリー対策
-システム面
中央に固まりやすい攻撃に対して守るためには、1−4−5−1が有効である。
また、サイドバックの質に自信がない場合は、サイドチェンジで振られにくい1−5−4−1が良い。
また、選手の質で劣らない自信があれば、サイドバックの裏を直接ついていく、1−4−3−3でウィングを大きくサイドに開いたシステムも相性が良い。
-攻撃面
まず、ファールがかさみ易いセンターバック二人に対してボールキープに優れるフォワードをぶつけ、早い時間にイエローカードを出させるとよい。
また、フォワードが倒された後は、ファールを犯した選手に文句をつける振りをして近づいた選手が素早くボールをサイドに展開する手も有効である。
もしこれに対してディフェンスが反応して足を出せば、イエローカードも期待できる。
ディフェンスラインでのボール回しに自信があれば、ゆっくりと後ろで回すのもよい。
ロナウド、フィーゴ、ジダンの精神的持久力が切れるのを待っていれば、中盤とディフェンスの間にスペースが生じることが多い。
サイドバックからサイドバックへのサイドチェンジは特にマドリーに対して有効であり、ここに長いボールを正確に蹴る選手を置くと主導権を握りやすい。
ディフェンスラインでボールを回しながらサイドに相手を引き付けてサイドチェンジ、縦に送ってマドリーの中盤を後ろに走らせてバックパス、もう一度サイドチェンジ、のように攻めればマドリーの守備は案外脆い。
-守備面
サイドバックは常に斜めへの長いサイドチェンジを警戒する。
また、フィーゴ、ジダンと1対1になるサイドバックの能力が低い場合には中盤からのヘルプを急がせる。
奪ったボールは素早く引いてくるフォワードに当てるか、逆サイドに展開し、マドリーのプレッシャーをかわす。
マドリーがディフェンスラインでボールを回している場合、ロングパスがラインの裏に出る確立が高いので、キーパーとセンターバックは常にロナウドの動きに注意を払う。
精神的に強い選手がいる場合、中盤後方に下がったジダンを削らせて精神を不安定化させる。
ちょっと雨が降った時などは、思いっきりピッチに水を撒き、ボールが走らないように細工する。
・結論
新型のシステムを採用したのは、この試合より2節前の20節、マジョルカ戦からである。
マジョルカ戦は3−1で勝利しており、その得点は、コーナーキックから相手のミスによるペナルティー(35分)、コーナーキックからのこぼれ球を押し込む(80分)、ソラーリの個人技からのゴラッソ(93分)。
次のヌマンシア戦は、ベッカムのフリーキック(62分)、サルガドのゴール(82分)。
という形になっている。
ガラクティコと呼ばれる選手が交代を迎える前に、プレーの中で点を奪ったのはこのエスパニョール戦が初めてである。
ルシェンブルゴのシステム変更は非常にドラスティック(思い切った)なものように感じられるが、「カウンター」「サイドチェンジ」「セットプレー」からゴールを奪う内容は、カルロス・ケイロス時代と酷似している。
今後、特に中央に固まった選手達の攻撃面における改善が望まれる。
・謝辞
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