フランスは不始末な試合でクロアチアと引き分け、イングランドはスイスを相手にからくも勝利した昨今、本日はそのイングラテーラ対スイサについてであります。
まず、イングランドは終始優位に立ちながら三分間で敗れ去ったフランス戦からセンターバックのキングをテリーに変更したのみで戦術的にもほぼ同じ。
ほぼとは何事かといえば、フォワードに置かれたルーニーの仕事がやや異なる。緒戦ではビエイラを追いかけて頻繁にボランチの前まで戻っていた彼ではあるが、この試合では前に居残りほとんど敵を追わない。守備の負担を軽くし、攻撃に専念させる、ある意味スイスをなめたと言えなくもありませぬ。
対する永世中立国のシステムは1−4−3−2−1。トップ下として数えたシャプイザの位置が微妙でありますが、守備においてひたすらジェラードにプレッシャーをかけていたのであるからトップよりもその一つ下と数える方が良いのではなかろうかと。
そうそう、一つお断りをさせていただきますが、一つの国で四つも公用語を持たれた日にゃあ、こちらの頭では名前はどう読むべきかよくわからんので、図ではなんとなくよさげな感じで呼んで、以下の文でもそのまま通そせていただこうかと。
スイスは、中盤底のセレスティー二がカバーを一手に引き受け、左右のフージェル、ビッキーは開いたサイドを活用するべく攻撃においてはサイドライン際まで開く。
このシステムはカウンターに強く、三枚の中盤でディフェンスラインを押さえ、奪ったボールをトップ下のどちらかにつなげ、そのまま前に出る三人をチーム全体で押し上げながら支える。
カウンターを遂行するため、前の三名は、最後のパスを出せる人間、スピードに優れトップ追い越すことができるトップ下、ボールがキープできて点を取るのが上手いフォワード、理論的には以上のように組み合わせると福がつきやすい。
このシステムを用いて国際舞台で成功を収めた最近の例としては、ミカエル・ラウドルップ、ブライアン・ラウドルップのラウドルップ兄弟をトップ下に要して戦ったデンマーク代表が挙げられます。
このシステムを打ち負かすにはフリーになり易いサイドバックが鍵となり、彼らに抜群の突破能力があればさしたる苦労なく押し込むことができる。しかしながらイングランドのそれはアシュリー・コールとガリー・ネビル。コールはさておきガリー・ネビルではフリーになっても有効なプレーをするのは難しい。のではあるが、この日の彼はボールを持たずに大活躍、上がっては絶妙なセンタリングを出して大活躍。
まず一点目はスイスがセンターライン付近右サイドでフリーキックを得た後、ハカム・ヤキンが長く蹴ると見せかけて近くのセレスティーニにショートパス、それを逆足の左でコントロールしようとしてトラップミス、イングランドが回収してカウンター、ボールは一気に逆サイドに運ばれ、サイドで浮いたベッカムへ、ディフェンスは寄せを試みるが、外側からオバーラップしたガリー・ネビルに気を取られ中途半端になった隙にボールは逆サイドに送らた。
あのオバーラップは正に絶妙な瞬間に行われており、0.2点はガリー・ネビルのものと言ってもいい。
三点目もジェラードが左からベッカムへのサイドチェンジを行った後、恐ろしい勢いで後方から走り込み、右後方から来るパスをダイレクトで中央に低くセンタリング、逆サイドに抜けたボールをジェラードが叩き込んだ。
後ろから来るボールの方向をトラップなしで変えるのは難しい、それも八十分過ぎに五十メートル以上全力疾走をした後となればさらにその難易度さらに高くなる。
あれを目の当たりにした日には、恐れ入らずにはいられない。
話は変わって、上で1−4−3−2−1はカウンターに向くと書いておいてなんですが、この日のスイスは逆襲よりもセットアップオフェンスを中心に攻めを展開しておりました。典型的な例を挙げますと、このようになります。これはいわゆる「ピン」を使ったゾーンディフェンス攻略の典型例にもなっております。
ピンとはピン止めの略で、ゾーンで守る選手にあるイメージを見せその場に停止させてしまう、つまりピン止めしてしまう、このような状態を指して言うのですが、お題目だけではわかり難いので、以下具体的に。
まず手品のタネの第一歩としてはトップ、トップ下、左右のミッドフィールダーもしくはサイドバックを使って敵最終ラインの前に三人の選手を置く。エゲレスの最終ラインは四枚なのであるからして、三人の相手に数的優位を保つ為には誰もその場を動くわけにはいかない。つまり、例え前方にフリーな選手がいたとしても詰めるのが一歩遅れる。
しかる後にサイドから中央にボールを戻す。この図ではハースからセレスティーニに戻ったと思って頂いて、その瞬間にそれまでベッカムとランパードの間に位置していたハカン・ヤキムがジェラードとランパードの間を狙って中盤のライン裏に潜り込みパスを受ける。
これでヤキムはフリーになり、最も攻撃を仕掛けやすい位置でボールを受けることができる。
サッカーでそんなに簡単に絵に描いたように上手くいくんか、と疑問に思われる方もございましょうが、これがまた上手くいく、というより、ピッチ上で実際に行われている。
さらに言うならば、上の例でピンされているのはランパードでありまして、セレスティーニがボールを持った瞬間、ハカン・ヤキムは彼の視界から外れる。よってスイスの10番が縦に動くのか中に切れ込むのか、彼にはわからない。
間を通るパスをカットするためにジェラードに近づけば、ヤキムが元々いたポジションでフリーになり、その場に留まれば間を通される。この二つのイメージを一人では解決できないため、その場にピン止めされた状態になる。
フランス戦でにもこれとほとんど同じパターンでやられた場面がありますので、お暇でしたら探されるとよろしいかと。
フランスは偶然その形が生まれただけだが、スイスはそれを意図的に行っている、言葉を変えれば、そのような形が生まれやすい状態に自分たちで誘導している。
これを防ぐためには、
ランパードは間を縮めそれによって空いた穴をベッカムが絞って埋める
フォワードの一人を下げ、セレスティーニをフリーにしない
ジェラードが素早く前に詰め、パス範囲を狭める
といった手段が考えられるのですが、ベッカムはビッキーへのパスを警戒せざるを得ないため応対が遅れる、この日は前に二人を残す作戦に出たためフォワードは返ってこない、前半はそれなりに素早い詰めを見せていたが、後半になるにしたがって誰も動けなくなった、となると止めるのは難しい。
そもそも、中央にきっちり集まってセレスティーニがボール持った瞬間に詰めていればこの問題はほとんど解決するのですが、この日のイングランドの疲労は只事ではございませんで、後半になるとぱったりと、文字通り足が止まった。
フランス戦とこの試合の後半を比べると良いゾーンディフェンスとただ人が立っているだけのゾーンディフェンスの差がよくわかりまして、例えば前の試合では各選手が常に細かく足を動かして次のパスへの詰めを狙っていたが、この試合ではみなべた足、一人がボールに詰めてもその隣の一番簡単なパスに対して詰める人間がいない。
昔も述べましたが、1−4−4−2でルイス・アラゴネスやエリクソンのようなゾーンディフェンスを行うなら、集散が命。中央にぎゅっと集中してパスの選択肢を少なくし、次のパスに素早く反応して詰めることでボールを不安定化させ回収につなげる、のでなければならないのでありますが、この日のように皆がべた足になれば、各人の間は広がり、ラインとラインの間も広がり、ゾーンはなんの意味も持たない。
これは、フランスに在り得ない負け方をしたショック、スイスに引き分ければ予選突破が極めて難しくなる恐怖、異様な暑さ、これらが絡み合った挙げ句に、相手が一人退場した安堵感が十人を相手に押し込まれた原因であろうと想像されます。
最高に近いパフォーマンスを見せたフランス戦で敗れ、最悪に近かったスイス戦を3−0で大勝、世の因果とはわからんもので御座います。
二試合続けて負けてもなんの不思議もなかったフランスがグループトップに立つのもまた不可思議。
最終節、クロアチアとイングランドの対戦は必見でありましょう。