この日のバルセロナの戦い方には、昨年、同じ相手に5−4で敗れた教訓がいかされていた。
まず、前回のチェルシー戦を思い返してみると、
図のような形で、中盤をフォローするために高い位置を取るサイドバックの裏を突かれて苦労した。
この当時、サイドバックの裏を取るというバルサ対策は一般的に行われており、チェルシー戦以前にも、レアル・ソシエダーなどが同じ戦術を用いて成功を収めていた。
サイドバックの裏とボランチの横、どちらかのスペースが大きく空くのは、前線から激しくプレッシャーをかけていたバルサのチーム構成上の欠陥というべきもので、リーグでは圧倒的な強さを見せたが、一発勝負のトーナメント戦では非常に脆い一面も見せた。
その欠陥は明らかだったが、昨シーズンのバルサは、「前からのプレッシャー」という一つのパターンに固執し、アウェイでのチェルシー戦でもそれを貫いたためにサイドバックの裏を取られて4−2と完敗した。
このため、この日のライカールトは、中盤の左にモタを先発させ、ロナウジーニョの背中をモタでカバーすると共に、
図1のようにエジミウソンとダブルボランチ気味にプレーすることで、相手にカウンターの起点となるスペースを与えないことを意図した。
これと同時に、サイドバックの上がりを抑え、攻撃をデコを含めた前線の4人に任せ、その後ろをゴールキーパーを含めた7人でカバーする、というのが、この日のバルサのゲームプランの骨子だった。
また、このモタの起用は、冬枯れてデコボコになっていたスタンフォードブリッジの芝とも関係しており、パスをつなごうにもつなぎにくいピッチコンディションを考慮した場合の必然的な選択でもあった。
前半は、ラインを上げずにじっくりと待つバルセロナに対して、チェルシーも一歩引いた位置でボールを待ち構えたために、にらみ合いの様相を呈した。
この状況を打開するために、バルセロナは前線の個人技に頼り、チェルシーはセットプレーに頼った。
まず、チェルシーの側では、横や縦から入ってくる高いボールに対して抜群に強いクレスポをフォワードに起用したこと自体がセットプレー対策だと考えられるし、また、実際の試合でもバリエーション豊富なセットプレーを見せた。
その一例は、開始1分10秒の
図3に見られる。
この形から、モウリーニョの狙いとしては、
図4のように縦にボールを出し、サイドに選手を引き付けた後、
図5のような形でランパードがミドルシュートを放つ、というものだった。
これは、理屈の上では完璧なセットプレーだが、現実には上手く機能しなかった。
実際の進行は、
図6のようになり、壁を務めていたデコはボールを追わずにランパードをマークしたため、途中でボールをカットされた。
これは、デコの隠れたナイスプレーと言えるが、一般的には、壁の前をサイドに流されたボールについては、壁の端の選手が追うことになっている。
この場面で、なぜデコがそれに反する行動を取ったかは謎である。
仮説としては、最初に走るのをサボった、事前に情報が入っていた、ポルト時代にモウリーニョとこのプレーを練習していた、のいずれかが考えられる。
付け加えるならば、チェルシーのプレー意図を察するには、
図4の選手Aの動きを見ればよく、ランパードがボールを蹴る前にその裏をカバーするように動いている。これは、ランパードが前に出ることを示唆しており、そこからセットプレーの狙いを読み取るとこができる。
チェルシーは、この他にも8分50秒にも特殊なセットプレーを披露しており、相手が引いて守ることを予想して、それを崩す手段として十分に練習を積んでいたことがうかがわれた。
これに対し、バルセロナは、ボールを待ち構える相手守備陣を崩すために、前線の個人技に頼り、特にデル・オルノとマッチアップしたメシを起点として穴を広げていった。
この日のメシの切れは凄まじく、ボールを持つ度にデル・オルノを切り裂き、ほとんどのチャンスを演出した。
モウリーニョにとっては、守備の苦手なデル・オルノをメシにぶつけたことがあだとなったが、それは、さらに酷い結果をもたらした。
まったく相手を止められないイライラからメシに前蹴りを見舞うなど、不穏な行動が目立っていたデル・オルノは、37分にドリブルで切り返した直後のメシに体ごと突っ込んでしまい、一発レッドを受けて退場した。
昨年の第1戦でドログバが退場したことを彷彿とさせる出来事の後、チェルシーのシステムは
図のようになった。
ジョー・コールを外してジェレミを入れたが、その形はいわく言い難く、1−4−1−4とも1−1−3−1とも取れる。
とにかく、この形でハーフタイムまで耐えると、後半からは
図のように明快な1−4−3−2に変更された。
昨年の退場後は、1−4−4−1だったが、この差はホームとアウェーの差だと考えられる。
この後、59分にセットプレーからモタのオウンゴールでチェルシーが先制した。
そして、このきっかけとなったオレゲルのロベンに対するファールには、チェルシーパスとでも呼ぶべきプレーが関係していた。
具体的には、
図7のように表され、実線が選手の動き、破線がボールの動き、ジグザグ線がドリブルを表している。
これは、57分30秒のプレーで、カウンターでグジョンセンがボールを持ち込んだ状況を表しており、中央から右へと切り替えした後、進行方向に対してほぼ直角にパスが出ている。
この、プレーの方向に対して90度に近い角度で出されるパスが、世の中のごく一部でチェルシーパスと呼ばれている。
通常、進行方向からパスの角度がずれればずれるほど、正確に蹴ることは難しい。
このため、直角という無理矢理に近い角度で出されるパスに対するディフェンスの注意は甘くなる。
この死角を突くのがチェルシーパスの意図であり、前線の選手がサイドに流れる方向と逆に切り返してパスをする、もしくは、ボールを持った選手が切り返した方向と逆に前線の選手が流れることで実現される。
チェルシーは、このプレーを得意としており、例えば、この試合でも41分37秒に
図8のような形で同じようなパスが見られる。
(この図では、グジョンセンのドリブルの距離が短かく、ジグザク線で表しにくいため、実線で表されている。)
これは、いわゆる「消えるプレー」をチームとして制度化したしたようなものであり、チェルシーのカウンターが綺麗に決まるときは大体これが関係している。
例えば、
図のような昨年の対戦での得点も同じ文脈で捉えられ、この時、中央を向いていたランパードは無理に体を開きながらボールをサイドに送っている。これは、体の向きから想像されるプレー方向とパスの方向を無理にずらすという意味でチェルシーパスと背景を共有している。
結局、この試合は、テリーのオウンゴールとエトーのゴールで逆転したバルセロナが勝利を収めた。
こうなると、第2戦のバルセロナの戦い方が注目され、この試合と同じようにスペースを消して戦うのか、それとも、いつものようにパスをつないで戦うのかが問題となる。
この試合の
03−04式バルサに近い配置が守備的には最も安定している。(
バルサ対セルタの
図4参照)
勝っている以上、それを続けることが理にかなっていると思われるが、ライカールトの判断が待たれる。
また、バルセロナの選手では、オレゲル、マルケス、プジョルの3人がイエローカードを1枚受けると出場停止になってしまう。
データ的には、この3人が揃わないとバルサの失点は飛躍的に増大する。
今後に向けて、彼等の動向も注目される。

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