チャンピオンズリーグでモナコ相手に3−1と敗れ、またここで0−3とオサスナに大敗を喫したレアル・マドリー。
サンティアゴ・ベルナベウにおいてこれほどに酷い試合を見た記憶はない。
マドリーの戦術的な弱点は対マラガ戦の稿に書いてありますが、
この日はそれに過緊張というファクターが加わり、見るも無残な展開になってしまった。
適度な緊張はパフォーマンスを向上させるが、過度の緊張は逆に作用する。
その第一の原因は、筋肉の緊張過剰により初動が見えやすくなるためである。
マドリーの選手達の何が上手いといえば初動、すなわち動き出しが上手い。
特にフィーゴ、ジダンを見ればよくわかるが、ボールを持つ、持たないにかかわらず非常に滑らかに動き出す
守備者にとっては、この滑らかさが曲者で、最初の動きが見えにくいとは動きに対して反応する時間が短いと同義であるため、慌てた応対をせざるを得ない。
慌てて応対すれば体に余裕がなくなり、次の切り返しに反応できない。
フィーゴが完全に止まった状態、もしくは極めて遅いスピードで動いているにもかかわらず、簡単に相手の裏を取ることができるのは、この見えない初動に負う部分が大きい。
しかしながら、筋肉が過度に緊張した状態でこのように動くことは不可能である。
いわゆる「力んだ」状態で滑らかに動くよう努力していただければ、その意味はおのずと明らかになるのではないかと。
コパ・デル・レイ(国王杯)での失敗、モナコにおける失態に起因する周囲からのプレッシャー。
これがマドリー各選手をほんの少し平常状態からずらし、それが為に普段は失わぬボールを失い、攻撃面において精彩を欠いた。
また過緊張の守備面における悪影響は最初の失点に現れた。
あの場面では、オサスナのロングスローに対し、ミチェル・サルガド、ラウル・ブラボの二人が同時に競りに行き、衝突した挙句、仲良くピッチに倒れこんだ。
典型的な緊張症候群である。
フィールド上で、特にペナルティーエリア近辺においては一つのハイボールに対して二人のディフェンスが同時に競ってはならない。
これは、二人競れば一人分スペースが余計に空く、スペースが余計に空けばこぼれ球は高確率で相手に渡る、余裕をもってボールをキープした人間が決定的な仕事をする確率は非常に高い、以上の理由による。
あの場合、ブラボは中に残り、外側のサルガドに処理を任せるべきである。
ディフェンスが無駄に一人減れば敵は一人余る。単純計算によりバルドがロベルト・カルロスの外側でフリーになった。
非難を浴びた選手というのは一所懸命にプレーしようと試みる。批判されて適当にやっているように見られては火達磨にされるのであるからして当然の反応である。
しかしながら外からの圧力により一所懸命プレーする選手の視野は往々にして狭い。
それがチームに仇をなす例は多い。
非難の集中したディフェンスラインでミスが起こるのは理の当然であろう。
とまぁ、このような暗いミスの話ばかりをしていてもしょうがないので、システム論的な話をいくつか。
まずは前半、オサスナのトップ下、アロイシはベッカムを執拗にマークしていた。
マドリーの強みはどこからでも飛び出すサイドチェンジと裏へ抜けるロナウド、ジダン、フィーゴへのロングボール。
その起点となるベッカムにボールを触らせないための方策である。
しかしながら、ロナウドが退き、縦への脅威が薄らいだためか後半開始からその策を捨ててきた。
中休み後の10分間、マドリーが非常にいい攻撃をしかけていたが、その最初の段階で必ずベッカムによるサイドチェンジがからんでいる。
55分、オサスナ監督アギーレはトップのモラレスをバカヨコに変えた。
この時点でベッカムへのマンマークを復活させるものと思われたが、オサスナ側の戦術的変更はなかった。
その後、皮肉にもマドリーの出足を止めたのは、悪い状況にしびれを切らし、ボールを触るため己の役割を捨て、下がり過ぎたジダン、フィーゴであった。
彼らが下がっては、ベッカムの周囲にあったスペースが消える。それと同時にサイドでボールを受けるべき選手も消える。
これで攻撃が上手くいけば奇跡である。
そして、この試合でもマドリー監督、カルロス・ケイロスは、またもや一度の交代しか行なわなかった。
エルゲラとソラーリが観客席にいた関係でベンチにいたのは、ボルハ、ポルティージョ、ヌニェス、カンビアッソ、パボン、セサルといった面々。
交代に二の足を踏むのも無理はなかろうかと。
前半27分、ロナウドの退場によりボルハを投入したわけだが、その直後はグティがトップ下でラウールが最前線に居た。
が、時間と共にラウールの位置が下がっていき、グティの位置は上昇していった。
確かに両任のプレースタイル上、当然の結果ではある。
しかしながら、その変更が監督の意志に反したものであるとすれば、それの意味するところは大きい。
思えば昨シーズン、ロナウドの穴を埋めていたのはモリエンテスでなくグティであった。
それゆえ、モリエンテスはモナコに出向させられた。
しかしながらケイロスはマケレレの喪失により生じた穴をグティで埋めざるをえなかった。
また、それによって生じた前線の穴を埋めるべきポルティージョは機能せず、ロナウドの不在を埋めることはできなかった。
シーズン前の補強ミスが諸悪の根源であるにもかかわらず、カルロス・ケイロスの首が飛ぶのは規定路線であるらしい。
今回の事態を受け、ビセンテ・デル・ボスケの復帰を望む声も大きいが、そうはならないだろう。
マドリー会長フロレンティーノ・ペレスがマケレレを手放した際、それを表立って非難したのは誰あろう、デル・ボスケである。
このためペレスは「マケレレなんか3m以上のパスを出したことがないじゃないか」といった苦し紛れともとれる発言をせざるをえなかった。
そのような人間を呼び戻すとは到底考えられない。
火中の栗ならぬ渦中の銀河を拾う人間は出るや否や。